論文作成・統計

研究をプレスリリースする3つのメリットと問題点

プレスリリースとはメディアや一般の方に向けて、研究成果を発信することです。これにより、研究成果を広く知ってもらうためのものです。

プレスリリースには多くのメリットがある一方で、注意しないと社会に悪影響を与えてしまいかねません。読む人もこれから書く人にもぜひ知ってもらいたい内容になります。

研究をプレスリリースする3つのメリット

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Photo by Ken Tomita on Pexels.com

メディアに取り上げてもらえる

プレスリリースをすることで、メディアに取り上げてもらえる可能性があります。メディアに取り上げられれば、より一層、一般の方にも読んでもらえますし、その研究成果にも「箔」がつくかもしれません。

プレスリリースから取材などもあったりすることもあります。取材でさらに広めることができれば、より認知度が高くなっています。

そうすることで、「あの有名になった研究をやっているグループ」という知名度が研究者の中でも上がっていきます。実際プレスリリースをメディアが報道をすることによって、研究の内容を知ることがあります。

研究を世間に伝えることができる

プレスリリースの重要な意義としては、研究のアピールをすることができます。

研究をアピールすることで、研究チームや自分たちの名前を色々な人に知ってもらえるということがあります。
他の研究者にもその情報が伝わることで、将来の共同研究につながったり、その研究者の業界内での地位向上にも貢献をします。

これは重要なことで、一般の方は研究がどういうものか、外へ発信しないとわからないです。

多くの研究には税金がかかっています。もっとも有名な日本の研究費は科研費というものです。

研究が世界的にも重要なものだと外へ情報を発信することで、有意義な税金の使われ方をしている、ということを一般の方にも理解していただくことが大切です。

研究者の業績になる

プレスリリースをすることは、実は研究者の業績になります。

社会にインパクトを与えることができたという一つの指標にもなるからです。

通常研究の内容に対する評価というのは人それぞれですし、インパクトファクターによって評価をしているかもしれません。しかし、インパクトファクターはその雑誌の指標であって、その論文の評価ではありません。

ノーベル賞を取るきっかけになった論文でも、インパクトファクターの低い雑誌に掲載されているのはいくらでもありますし、また論文が実際に評価されたのは何年もたってから、というのが歴史的にも数多くあります。

研究の重要度というのはインパクトファクターでは推し量れないものです。そして、研究の重要度というのは、なかなか評価が難しく、多角的な面から評価しようというのが昨今の流れです。

その一つの指標としてプレスリリースをしたかどうか、というのがあります。また最近ではSNSでその論文の内容がどれだけ言及されたか、という指標もあったりします。

このようにプレスリリースは研究者にとってメリットの大きい活動の一つです。

研究のプレスリリースにおける3つの問題

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プレスリリースをする、しないの判断というのは研究者の判断です。自分で良い研究だと思うから、プレスリリースをしようとなるのです。

そして重要な点は、プレスリリースが論文を読んで評価した人の記事ではなく、研究者自身の発信だということです。主観的視点の入った文章になっています。

アイキャッチなタイトル

プレスリリースに重要なことは多くの人の目を引くことです。そうするためにはどうするでしょうか。

いちばん大事なところはタイトルです。そのタイトルを印象的なものにするはずです。しかし、ここに問題があります。

「○○の病態を解明!」とか「XXの治療法を開発!」などをよく見かけます。研究機関や大学のホームページに研究成果のプレスリリースのページがあります。

新規治療法を開発!とみたら、きっとその病気のある患者さんは期待するでしょう。しかし中身をみればまだマウスの実験の段階だったりすると、人に本当に適応できるのか全くわからないのです。マウスには効果があるけど、人では効果がないというというのは日常茶飯事です。

身の丈にあったタイトルであればいいのですが、人を惑わすほどのアイキャッチなタイトルには注意をしましょう。

プレスリリースにはいいことしか書いていない

プレスリリースは平易な言葉で書かれます。難しい言葉で書いて理解できないものでは意味がありません。平易な言葉で書くときに、専門性のある内容が削られていきます。

例えば、○○の病態を解明!というタイトルのプレスリリースだったとして、その病態の中のごく一部の機序について新たな報告をしたに過ぎないにも関わらず、その病気全体を明らかにしたように見えることがあります。

プレスリリースにはその研究の弱点などは書かれていません。論文の弱点を書いたところで、そんなところを正直に書いたところで誰も読まないからです。

論文には大抵limitationというセクションを取られています。この研究に足りない点や読むときに頭にいれるべき注意をしておくことがかかれています。その理由は、研究はバイアスという、結果を歪めてしまうような様々な影響を完全には取り除くことができないからです。

また結果から言えること以上の過大な解釈があれば、たいてい論文の査読過程で指摘をされて、修正を迫られます。その査読過程があることによって、論文の信頼性はある程度担保されています。プレスリリースはその点からも、わりと大げさなことが言えてしまいます。

プレスリリースは簡単な言葉で書かれていてわかりやすいのですが、研究の実際の成果により得られるものに比べて過大な期待をもたせてしまいますので、注意をしましょう。

学会発表や査読のない論文でもプレスリリースできる

これが一番の問題とも思いますが、学会発表や査読をまだ経ていない論文も発表できてしまうということです。このあたりは裁量は研究者に委ねられているところだと思います。

しかし、学会発表や査読前に公開した論文がどこまで科学論文として信頼できるかという問題があります。

本人が報告の価値があると思っている成果でも、実際の内容は問題だらけでとても質が低いことがあります。

査読という専門家の第三者の目が入ったものというのはやはりそれなりな価値があります。

読むときはその研究成果が査読された論文なのか、という点をしっかり見ておく必要があります。

プレスリリースにはメリットも大きいですが、問題点を注意しておかないといけません。
特に世間的な関心の高いテーマの研究というのは報道される可能性が高く、研究自体の質やプレスリリースの内容がしっかりしていないと多くの人が惑わされたりしてしまい、社会的に負のインパクトを与えてしまうこともあります。
プレスリリースを書く人も読む人も、ぜひこれらの点に気をつけてください。